宿泊業のBCPは、従業員の安否確認だけでなく、滞在中の宿泊者を守り、帰宅困難者へ情報を提供し、客室・食事・水・衛生をどの範囲で維持するかを決めます。営業継続を一つの状態で考えず、受入停止、既存宿泊者のみ対応、一部フロア運用、通常営業への段階を作ります。

発生時点の宿泊者を把握する

予約台帳、チェックイン状況、客室清掃、団体客、従業員宿泊、外出中の宿泊者を確認できる方法を決めます。システムが使えない場合の代替名簿と、個人情報を安全に扱う手順を用意します。

外国人宿泊者、移動に支援が必要な人、乳幼児連れ、医療機器を使用する人など、情報提供や避難に配慮が必要な場合の相談窓口を決めます。個別情報をBCP本体へ固定せず、最新情報へアクセスする方法を定めます。

客室を使える条件

建物安全だけでなく、電気、水、給湯、空調、エレベーター、通信、消防用設備、清掃、リネン、廃棄物を確認します。すべてが復旧するまで閉鎖するか、利用できる区画だけで運営するかを経営者と施設担当が判断できるチェック表にします。

温浴設備、厨房、宴会場は客室と異なる設備・衛生条件があります。客室を使えるから全館営業できるとは限りません。機能別に再開条件を分けます。

予約とキャンセル対応

新規予約を止める判断、既存予約への連絡、オンライン予約サイトの在庫停止、返金や振替の方針を決めます。複数の予約経路がある場合、一部だけ販売が続かないよう更新担当と代行者を設定します。

電話が集中したときの案内文には、営業状況、宿泊者の安全、連絡手段、次の更新時刻を含めます。確定していない復旧日時を約束しません。

物資と地域連携

食料、水、衛生用品、燃料、リネンの在庫と納入先を確認します。地域の避難者受入れや行政からの協力要請に応じる場合も、現在の宿泊者と従業員を安全に支えられる範囲を先に確認します。

訓練で段階的再開を判断する

停電と断水が一部継続し、従業員が不足している想定で、どの機能を止め、どの客室を使い、予約をどう更新するかを判断します。結果はBCPだけでなく、予約システム手順、施設点検、仕入契約、宿泊者案内へ反映します。

事業継続力強化計画の認定制度を活用する場合は、中小企業庁の最新案内で対象と申請要件を確認します。事業継続力診断で再開条件を整理できます。

夜間発生の初動

夜間はフロント、警備、設備、宿直など限られた人員で対応します。宿泊者の安全確認、館内情報、通報・外部連絡、設備確認を同じ人へ集中させないよう、実際の勤務体制で役割を組みます。

支配人や本部と連絡が取れない場合でも、避難、安全確保、新規受入停止など現場が行える判断を明確にします。営業再開や大規模な費用判断は代行順位を定め、記録を残します。

宿泊者の所在と連絡

在室、外出、チェックイン前、チェックアウト後、団体、従業員宿泊を区別します。予約システムが使えない場合、最新の宿泊者情報へ安全にアクセスする方法を決めます。

家族や旅行会社から問い合わせが集中する場合、個別情報の確認手順と外部発表を分けます。宿泊者の安全を確認できていない段階で推測を答えず、次回更新と窓口を案内します。

食事・水・衛生

厨房を使えない場合の食事提供、アレルギー情報、飲料水、トイレ、清掃、廃棄物を確認します。備蓄数量を一般記事の数字で決めず、最大宿泊者、従業員、設備、自治体案内から自施設の必要量を算定します。

外部から食事や水を受け入れる場合、搬入口、検品、保管、配布を決めます。温浴設備や客室清掃を停止する場合、宿泊者へ提供できる範囲を分かりやすく伝えます。

外国語とアクセシビリティ

多言語の定型案内には、営業状況、避難・待機、使用できない設備、問い合わせ先を含めます。自動翻訳だけに頼らず、短く誤解の少ない文を準備します。

聴覚・視覚・移動に配慮が必要な宿泊者への情報伝達と支援を、予約時情報や現場確認から行います。個人情報をBCP本文へ固定せず、必要な担当者が最新情報を参照できる方法を定めます。

OTA・自社予約・旅行会社

販売経路ごとに在庫停止、既存予約への連絡、キャンセル、返金、再開設定の担当を決めます。一つの予約サイトだけ止めて他経路から予約が入る状態を避けます。

旅行会社や法人契約の団体には、代表窓口と宿泊者本人への情報提供を分けます。再開見込みを確約する前に、建物、ライフライン、人員、清掃、消防設備等の条件を確認します。

施設点検から再開へ

再開判断表には、建物、電気、水、ガス、空調、エレベーター、消防用設備、通信、厨房、客室、清掃、従業員を入れます。専門判断が必要な設備は保守業者等へ確認し、BCP担当だけで安全を断定しません。

一部フロアで再開する場合、使用区域と閉鎖区域、避難経路、宿泊者案内、従業員動線を確認します。館内図と予約販売可能な客室を一致させます。

地域からの受入要請

自治体や地域から避難者、支援者、復旧作業員の受入れ相談が来る場合があります。既存宿泊者の安全、客室、食事、水、衛生、人員を確認し、対応可能範囲を回答します。

通常宿泊と支援受入れで、受付、名簿、料金・契約、個人情報、滞在ルールが異なる場合があります。平時に自治体や観光関係者と役割を確認します。

訓練の評価

夜間停電、断水、予約システム停止のうち一つを主条件にし、宿泊者確認、営業判断、外部案内、段階的再開を机上で進めます。情報を追加したときに判断がどう変わるかを記録します。

改善をフロント手順、設備保守、予約システム、仕入、教育へ分け、担当と完了条件を設定します。次回訓練で再検証し、施設改修やサービス変更をBCPへ反映してください。

財務と資金繰り

休業、返金、代替宿泊、修繕、人件費、キャンセルの影響を経理と確認します。保険や融資の連絡先、必要資料、権限を整理します。具体的支援制度は申請時点の一次情報を確認します。

経営者不在時に緊急支出を承認できる範囲を決め、記録を残します。安全確保に必要な支出と、営業再開投資を分けて判断します。

この記事の執筆・監修は丸岡 峻です。元京都市消防局13年・現役防災士(日本防災士機構認定)・消防設備士・危険物取扱者。